HAPPY HALLOWEEN !  


昨今、何でそれが日本でこうまで盛り上がっているものかのハロウィンで。
キリスト教の催事だと思ってるお人もいるくらい、
何の行事か実は知らないって人ばかりなのに、
何でか日本各地の繁華街で若い人中心に大盛り上がりの不思議なイベント。
ちなみに、本来はケルト民族の風習から始まったもので、
欧州ではさほどメジャーなお祭りではない。
北米に移住した人々の中、アイルランド系の住人たちが持ち込んだそれが、
アメリカの文化っぽく広まったのであり。
ホラーブームも相俟ってか、
テーマパークが下手な盛り上げしたのが余計な煽りになったらしく、
亡者が徘徊する晩であり、
魔物に扮装した子供らがご近所の家々を回ってお菓子をねだる
…というくらいしか知られぬままだったのが、
もはやコスプレ大会でしかない大騒ぎと化しており。

 「バレンタインデーの盛り上がりよ 再び だねぇ。」
 「それか、クリスマスの前哨戦とか?」
 「そもそも、クリスマスを祝うならイースターも祝うのが順番だろうに。」

貿易港のお膝元という土地柄からか、
親御やそのまた親御の代からお住いの欧米の方も多数いらっしゃるヨコハマだが、
ハロウィンで騒いでいるのは日本人の方が圧倒的に多い。
正統派のクリスチャンの方々にしてみれば、
宗教的な催しではないからさほど重要視してはなかったからだろう。
国木田さんの言いようから、そういや最近だよねイースターもという声が出たところで、

 「でもまあ、あたしも花祭りは知ってたが、
  お釈迦様が入滅した日は最近まで知らなかったし。」

一応は仏教徒なのにねと自身のコスプレにちなんでか、
なかなか豪奢な袈裟と僧衣をしっかり着込んだまま肩をすくめた与謝野せんせえが言っているのは、
釈迦牟尼様のお誕生日である“花まつり”は知られているが、
入滅なさった日 “涅槃会(ねはんえ)”はあまり知られてないものねぇという意味で。
(実際問題 正確なところは不明であるが、
中国で陰暦2月15日と定まったそうで、3月15日に催されるところもある。)

「日本人はそういうとこがアバウトですからねぇ。」
「そうそう。
 お宮参りは神社でやって、結婚式はチャペルであげて、挙句、お葬式はお寺ですから。」

ミニスカポリスと看護婦さんのコスプレ姿な
春野さんとナオミちゃんがしょうがないですよぉと苦笑して見せて、
うさ耳のカチューシャにアリスもどきのエプロンドレス姿の鏡花ちゃんの肩を
キャッキャと笑いつつ抱き寄せる。
ふざけているわけじゃあなくて、
特に派手な振る舞いをせずとも 異様に顔面偏差値の高いグループなため、
周囲から何のサークルだろかといぶかしんでか注視されまくっている一団で。
カモフラージュを兼ねての演技だったが、
それがまた愛らしかったものだから、心のシャッター押した男衆がさぞかし出たことだろう。

「大体、何をするものか判ってないままじゃあ、
 仮装してみたところで30分も経てば退屈にもなるってものでしょ?」

ちなみに、
日本版ハロウィンの正統派の発祥の地とされているヨコハマでは、
一番近い日曜の昼のうち、ファミリー層を中心に仮装パレードを催すそうで。
そんな風な健全な目的がしっかとしていりゃあ問題は起きないのだが、

「そうそう。せめて何かへお参りするんだとか、
 まつわるお題目のコンテストやバザーが開かれるとか、
 そういうイベントを立ててでもない限り、
 帝都のシブヤや 大阪ならミナミ? 繁華街にそもそもの馴染みがない人には
 そんな場所へ来たところで 遊び方も判らないのだから間がもちゃしない。」

そのうちお酒の勢い借りて大騒ぎして暴れる馬鹿が出て来る。
お祭り慣れしてないんだから、マナーも何もあったもんじゃなく。

 「数に任せてとんでもない迷惑行為に走る若いのが、
  どこぞの成人式よろしく出かねないとあってはね。」

早い話、混乱が生じて事件にならないようにという警備を依頼された
武装探偵社の皆様であるらしく。
いざとなったら異能という奥の手使ってもいいからと、
暗に非合法な策も期待されているらしいが、

 「だったらいっそ、迷惑行為として片っ端から引っくくりゃあいいのにさ。」

うん、いっそのことそうしちゃおう。
こんな馬鹿々々しい依頼、何で僕まで加わらにゃあいかんのだと、
そういう割に、ハロウィン仕様だろう
オレンジと紫色のペロペロキャンディーを手にしておいでの名探偵様だったりし。
彼と国木田さんは日頃のいでたちも探偵と教師のコスプレみたいなもんだと言い通し、
特に際立った仮装はしちゃあいないが、
やたら長身だったり、やはりやはりお顔の造作がよろしいがため、
思わぬ注目を集めておいでで、今後の活動に支障は出ないものか。(笑)

 「シブヤでは痴漢に盗撮犯もわんさか出たってね。」

やれやれと肩をすくめた、牧師様スタイルの谷崎さんだったのへ、
異教同士で仲良く語らう僧侶姿の与謝野さんも呆れたように苦笑をし、

 「下着同然な際どいカッコしてるお嬢さん方も悪いよね、あれは。」
 
包丁振り回して暴れといて“殺す気はなかった”って言ってるよなもので、
触っていいとか撮影していいなんて言ってないって言い立てたっても
あんな大混乱な場でそれは通じない、
見てほしいからそういうカッコしてるんだろうって言い返されるのがオチ。
勝手にペタペタ他人へ触るなんてとんだ馬鹿野郎には違いないけど、
そして裁判になりゃあ当然のこととして余裕で勝てもするけれど。

 「草ぼうぼうなジャングルをビキニで散歩してりゃあ
  一斉に蚊に食われまくるもんだろ?
  それと同じようなものだって、何で判らないのかねぇ?」

当たり前の保身ってものを考えたらば、
毎年大騒ぎが報じられてて、常識のない馬鹿ばっか集まってるところへ
そんな危ないカッコして行くほうもおかしい。
お触り禁止と宣言し、ボディガード風のムキムキマンも同行してもらうとかしなきゃあね。
キモイ想いをしたのは気の毒ながら、ちょっと考えりゃ判るでしょうにねと、
若さゆえの無謀や考え無しでは済まぬ所業へ、
こうまでの騒ぎにあんまり関心のない彼らとしては ただただ呆れるばかり。

 *作者註・某ウィルスは不在という世界線設定でお届けしております。

今年は急に冷え込んだのと、騒ぎをさすがに学習した警察や地元の商工会の呼びかけで、
今宵だけはアルコール禁止とか早めの閉店を行使するお店も少なくはなく。
その旨はネット上へも広まってはいて、
宵が迫る時間帯だが、大通りや駅付近の広場などはさほど混み合っちゃあいないものの、
何の若い衆はこれから出て来るのやもしれず。
それと、これも考えにゃあいかんのが、闇に紛れて悪さする輩も出かねないこと。
羽目を外して日頃以上に警戒のないお嬢さんなどが攫われては一大事。
多少大声で助けを求めても、浮かれての騒ぎと混同されかねないので、そこも見極めにゃあならぬ。

 「まあ、そっちの輩にゃあ、素敵帽子くんが率いる顔ぶれが念入りな警戒してくれてるようだけど。」

そうそう、忘れちゃあいけない。
此処ヨコハマの闇を牛耳るとある組織は、同時に街を愛す集団でもあるがため、
それでなくとも縄張り荒らしな行為を看過するはずがなく。
それもあってのこと、
こちらの陣営もコスプレして雑踏に紛れ込んでの、潜入捜査にあたる運びとなっており。

 「で。ところで太宰と敦はどこ行った。」
 「あれ?」

社長は連絡の中継と責任者なのでどこへでも向かえるようにと社の方で待機だが、
若手のホープとお騒がせイケメンの姿がそういや随分と前から見えなくなっており。
嫌な予感しかしないと言いたげに、既に憤怒の気配ありありの低い声で国木田せんせえが訊いたのへ、

 「えっとぉ。早い目に配置場所へ向かったのでは?」

頬を掻き掻き、バツが悪そうに、それでも惚けつつ言い訳をしてくれたのが谷崎さんなら、

 「血のりメイクのチャイナ娘の集団へ、
  大変だお怪我なさってと途惚けたこと言いつつ
  外科医姿の太宰がすっ飛んでったのは見たけどねぇ。」

古着の白衣を手に入れてとせがまれでもしたか、
与謝野女医がすっぱ抜き、

 「国木田さんに怒られますって言って、敦さんが追ってゆきましたが。」
 「きっと無理。見失ってると思う。」

この人出で、しかも化粧品の匂いもぷんぷんしているしと、
せめての抗弁役として居残ったか、賢治くんと鏡花ちゃんがそうと言い足し、

 「あんの すっとこどっこいがぁ〜〜っ!」

国木田先生が出席簿代わりの手帳を振り回して怒ったのは言うまでもなかったのであった。
平和な時ほど相変わらずです、はい。

to be continued.(20.10.31.〜)



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 *敦くんってどんな子だったっけと、ちょっとわたわたしてました。(笑)
  全然タイプ違うの書いてましたものねぇ。
  そんなこんなでまとまらないままに当日になってしまいました、続きます。(こらこら)